さて、今年は読んだ本の感想なんぞを書き散らしてみようという趣向をたててみた。よく「今年の目標は年間100冊読破!」みたいなハナシを聞くけれども、あれ?オレそれぐらい読んでない?まあマンガとかもいれればサ、とおもいつつ、昨年は途中でカウントするのがメンドくさくなってしまったので、結局どの程度読んでいるのか未だにわからん始末だけれども。
さて、そんなわけで初回。ここんとこあまりのおもしろさにすっかり大ハマリしているラジオ番組『菊地成孔の粋な夜電波』で紹介されていたというか、著者の方自らご出演されていろいろと語っていらして是非読んでみたいと思った本である。タイトルは『昭和が愛したニューラテンクォーター〜ナイトクラブ・オーナーが築いた戦後ショービジネス』。
とは言っても思春期のコドモを2人も持つ貧乏父さんなので (汗)、地元長野県千曲市の更埴図書館に新書のリクエストを出していたのだけれども、半年後に伊那の図書館からはるばる相互貸借されてきた。ってこれがどんだけ遠くからやってきたかは長野県の方しかわからんかもしれない。
相互貸借とは図書館どうしで図書資料を貸し合うこと。ってこれを最初に書いたら図書館どうしで化かし合うって変換されて、図書館て怖いところなんだなと納得したのはあまりにハナシが脱線するので書くべきではなかった。閑話休題。
その昔、たしか自分が小学2年生頃だと思うので、今から30数年以上昔の話。東京ディズニーランドなどというものはまだ影も形もなかった頃、家族旅行的に東京へはじめて行ったことを思い出す。いきあたりばったりで行って、いくつかホテルを巡ってやっと赤坂のビジネスホテルが空いていて、そこに泊まった。なんか「予約をとるようなしみったれたことをしたくない」とかわけのわからんことを死んだオヤジが当時言っていたような気がする。
確か昭和9年生まれのその男は、周囲の反対を押し切って実家のカネをかっさらい、当時とてもめずらしいことにわざわざ東京の大学に進学したりしたんだそうで、田舎のインテリを気取ったヒトだったんだと今になれば思う。しかし、所詮は田舎モノ。ショウというか、エンタメというか、そういうことには一切興味のないヒトであった。は?ビートルズ?なにそれ?みたいな。
そんなヤロウが、その時だけなぜか感慨深げに、「赤坂には伝説のキャバレー(ナイトクラブの意)があって、そこで力道山が刺されて死んだんだ」と言っていた記憶がある。あれ、このヒトもそんなことにちょっとは興味あったんだ。とコドモゴコロに意外だったような。
で、そんなことを思い出したのは、その伝説のナイトクラブが本書の舞台である「ニューラテンクォーター」であるから。もちろん戦後の英雄力道山が亡くなる原因となる事件が起きたところであることもあるが、それ以上に今の常識では考えられないような、世界的トップエンターテイナーが連日来日してショウを行っていたり、政財界の曲者が夜毎集まってはなにやら密談を交わしていたりと、まさに「大人の社交場」の頂点だったところなのだそうだ。
本書はその「ニューラテンクォーター」のオーナーだった著者が、ニューラテンクォーターで行われたショウの模様を録音した超お宝テープを CD 化することになったのにあわせ、当時のことを振り返ったエッセイである。この CD もえらいことになっていて、例えばナット・キング・コールが日本語で枯葉を歌っているなど、おいマジかそれ!!みたいな、驚愕なレア・トラックが収録されている CD 群なのである。
力道山刺殺事件の真実や、ホテルニュージャパン火災とその後の横井英樹氏との闘争といったなまぐさいハナシは前作『東京アンダーナイト~“夜の昭和史”ニューラテンクォーター・ストーリー』で語られているので、本作ではそのあたりは控えめに、ニューラテンクォーターで行われたショーとその周辺について語っておられる。
ビートルズショック以前の日本のエンタメとはどうだったのか、現在はいろいろなことが幼児化してほぼ絶滅しつつある「大人の遊び」とはどういうものだったのか、絢爛豪華なかつての時代を、とてもアマチュアの方とは思えない確かな著述で丁寧に語られている。
また、もちろんビートルズ来日にも著者の山本さんとそのご友人達は関わっておられ、来日直後に発覚したジョン・レノンがしでかしていたイタズラが本書にてはじめて明かされていたりする。
そういった方面にはまったく疎かったウチのオヤジも、それでも田舎のインテリ気取で東京で大学生をやっていたことがあるわけで、上述のように「伝説の」みたいなことを言っていたということは、やはりそこは憧れの特別な場所という認識があったのだろうな、と今となってはなんとなく想像できるような気がするのであった。
東京を代表するレジャースポット(死語)といえば、いつのまにやらディズニーランドということになっている。それはもはや常識であり、コドモに限らず大人もこぞってディズニーランドを目指すわけであるが、もちろん、それが悪いとは言わない。でも、そういったチャイルディッシュな文化だけではなく、かつて大人達が憧れた場所が東京にははっきりとあった。その記録に、証拠に、触れることができるとても貴重な1冊である。
ひとつだけネタばらしをすると、最後に前作『東京アンダーナイト』の映画化企画が進行中であるということが明かされる。その後の進展は知るべくもないが、期待してお待ちしたい。
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